「服が似合う人」は、何が他と違うんだろうか。シルエット? 色合わせ? それとも素材感?どれもきっと間違いじゃない
けれど、決定的なのは多分、また別の部分。ジョン スメドレーのニットはシンプルで寡黙な分、着る人の個性がはっきり
と映し出される。一見ずっと同じようでいて、少しずつ時代に合わせて変化をしてきたジョン スメドレーのニットウェア
がよく似合う人たちの肖像と、その理由。今回はチェリストの河内ユイコさんの場合。
Photograph_Yuri Iwatsuki
Text & Edit_Rui Konno
「服が似合う人」は、何が他と違うんだろうか。シルエット? 色合わせ? それとも素材感?どれもきっと間違いじゃないけれど、決定的なのは多分、また別の部分。ジョン スメドレーのニットはシンプルで寡黙な分、着る人の個性がはっきりと映し出される。一見ずっと同じようでいて、少しずつ時代に合わせて変化をしてきたジョン スメドレーのニットウェアがよく似合う人たちの肖像と、その理由。今回はチェリストの河内ユイコさんの場合。
Photograph_Yuri Iwatsuki
Text & Edit_Rui Konno
“何かを手放したら、純粋に音を
感じられる瞬間が増えてきて”
―黒い服でチェロを弾いているというイメージを勝手に持っていたので、河内さんが今日この装いで来られた
のはすごく新鮮でした。
あれは大体が「黒指定で」とか、「こういうドレスで」っていうのが決まってるときですね。悩んだんですけど、自分で一番着るシーンがありそうだなと思ったのがこのニットだったんです。あんまりカチッとした服を着るシチュエーションも、今はそんなにないので。
―河内さんを知っている人だと、かっこいいモードな姿を想像している人はきっと多いんじゃないかと思います。
全然ですよ! もう、Tシャツとかスウェットが1番いいです。
―ヒールの高い靴なんかも演奏時限定なんですか?
普段はあんまり履かないですね。本番のときには逆に履かないといけないんですけど。通例のマナーとしてもそうですし、姿勢的にもヒールがあったほうがいいんです。ヒールがあることで骨盤がちゃんと立ってくれるから。だから、フラットな靴だと私は弾けないです。ただ、その分やっぱり力んだりして無理はかかるので、普段はぺったんこで行かせてくれ…っていう気持ちです(笑)。
―黒い服でチェロを弾いているというイメージを勝手に持っていたので、河内さんが今日この装いで来られたのはすごく新鮮でした。
あれは大体が「黒指定で」とか、「こういうドレスで」っていうのが決まってるときですね。悩んだんですけど、自分で一番着るシーンがありそうだなと思ったのがこのニットだったんです。あんまりカチッとした服を着るシチュエーションも、今はそんなにないので。
―河内さんを知っている人だと、かっこいいモードな姿を想像している人はきっと多いんじゃないかと思います。
全然ですよ! もう、Tシャツとかスウェットが1番いいです。
―ヒールの高い靴なんかも演奏時限定なんですか?
普段はあんまり履かないですね。本番のときには逆に履かないといけないんですけど。通例のマナーとしてもそうですし、姿勢的にもヒールがあったほうがいいんです。ヒールがあることで骨盤がちゃんと立ってくれるから。だから、フラットな靴だと私は弾けないです。ただ、その分やっぱり力んだりして無理はかかるので、普段はぺったんこで行かせてくれ…っていう気持ちです(笑)。
―チェロを弾いているシーンにはやっぱりドレスアップがよく似合いますよね。現代だとカジュアルな服装で
弾かれる方もいるのかなとは思うんですけど。
もちろん、そういう人もいると思いますけど、私はどっちかと言うと伝統とかにはちゃんと敬意を払いたいんです。つま先が空いている靴とか、裾から足首が出る服装も本当はダメ。そういうところを守った中で、好きな服を着ればいいだけだと思ってます。マナーは守りたいし、そこを崩さなくても音楽とか自分のやっていることとか、他でもっと工夫できることがあると思うし、そこで自分らしさは出せるだろうから。
―演奏の技術やテクニックで、ということですよね?
はい。ただ、もちろんスキルが伴ってるに越したことはないけど、今はもう私がやるべきことはそこじゃないとも思っていて。ここ2年くらいで、自分の音を聴いたときにも「なにか変わったな」、「全然違うかも」っていうことが何度もあったんです。何かを手放したら、純粋に音を感じられるような瞬間が増えてきて。この間久しぶりに昔の自分の演奏を聴いてみたんですけど、息が詰まりそうになったんです。一生懸命弾こうとしすぎてて。
―チェロを弾いているシーンにはやっぱりドレスアップがよく似合いますよね。現代だとカジュアルな服装で弾かれる方もいるのかなとは思うんですけど。
もちろん、そういう人もいると思いますけど、私はどっちかと言うと伝統とかにはちゃんと敬意を払いたいんです。つま先が空いている靴とか、裾から足首が出る服装も本当はダメ。そういうところを守った中で、好きな服を着ればいいだけだと思ってます。マナーは守りたいし、そこを崩さなくても音楽とか自分のやっていることとか、他でもっと工夫できることがあると思うし、そこで自分らしさは出せるだろうから。
―演奏の技術やテクニックで、ということですよね?
はい。ただ、もちろんスキルが伴ってるに越したことはないけど、今はもう私がやるべきことはそこじゃないとも思っていて。ここ2年くらいで、自分の音を聴いたときにも「なにか変わったな」、「全然違うかも」っていうことが何度もあったんです。何かを手放したら、純粋に音を感じられるような瞬間が増えてきて。この間久しぶりに昔の自分の演奏を聴いてみたんですけど、息が詰まりそうになったんです。一生懸命弾こうとしすぎてて。
―その2年前というのは、ユニットでの活動に区切りをつけられた時期ですよね。話題も集めていましたし、
あの時期に河内さんを知った方も少なくないんじゃないでしょうか?
そうかも知れません。相方の彼女は手取り足取り本当に色々教えてくれて、演奏の技術に対してもめちゃくちゃシビアで厳しい人で、レコーディングもちょっとでもピッチが違うだけで「もう一回」となるんです。それでスキル的にはかなり鍛えられたけど、そこに自発的なものがなかったから、多分気持ちがついてきてなかったんでしょうね。惰性じゃないですけど、与えられたものを一生懸命こなすことで自分に合格を出してた自分自身にもちょっと嫌気がさしてきて。「習得したもの、今まで彼女に教えてもらったものを持って次に進もう」、「そうしないと多分私は後悔する」と思って、最後はそれを彼女に伝えました。突然の申し出になったから、すごく申し訳なかったな。
―そうだったんですね。
彼女は本当にすごい作曲家で、どういう指の運び方をしたら弾きづらいかっていうのも全部わかった上で弾きやすく書いてくれてるから、弾けなかったらもうそれは私の問題なんです。100%、私のスキル不足。それを乗り越えるためのスキルは本当にアップしたと思います。でも、正直言うと今のほうが、音は豊かになってるなとも思うんです。どう弾きたいか、どう聴かせたいかとかじゃなくて、もっと大きいものとして音を感じられるようになってきたんですよね。昔はどうやって弾くのが正しいかにとらわれていたけど、結局人に届くのは、スキルよりももっと他のところにあるものだから。
―“届く”という話で言うと、当初はアニメソングやポップスのカバーが多かったりしたのも、より多くの
人に届けたいという意図なんだろうなと勝手に思っていました。
そうですね。でも、アニメの曲を扱っていて1個すごくバズったものの中に、デモを聴いて知った時点で「めちゃくちゃいいじゃん!」と特に思えた曲があったんです。それでアニメも全部観て、改めて「このアニメと曲、超ヤバい!」って純粋に感じられて。それを演ったら、再生数もめちゃくちゃ跳ねたんです。それで、やっぱり観てる人もそこにどれだけ雑味のない気持ちが乗っかってるかはわかっちゃうんだなと思いました。そんなこともあって、余計に「もっと純粋に、自分の心がやりたいと求めていることを探してみたいな」と感じるようになったんです。
―そういう内面や心境の変化は、やっぱり演奏にも表れるものなんですね。
雑味や淀みというのかな…。自分が「こうしたい」と思った時点でエゴが乗っかって、そのエゴで音が霞むというか。でも、弾く側も聴いている人たちと同じでただその場所にいて、音を共有しているみたいな感覚になれる瞬間があるんです。その瞬間が、少しずつ増えてきたことが一番の変化かなぁ。昔はそれがまったくなくて、ただ上手く弾けるようになりたいとしか思ってなかった。ずっと弾いていて、そこは超えてるって自分が気づかなきゃいけなかったんですよ。結局私は何を通して音が出てるのかっていうところに気づけなくて進めなかったから、それだけの時間が必要だったんだなと思います。
―その2年前というのは、ユニットでの活動に区切りをつけられた時期ですよね。話題も集めていましたし、あの時期に河内さんを知った方も少なくないんじゃないでしょうか?
そうかも知れません。相方の彼女は手取り足取り本当に色々教えてくれて、演奏の技術に対してもめちゃくちゃシビアで厳しい人で、レコーディングもちょっとでもピッチが違うだけで「もう一回」となるんです。それでスキル的にはかなり鍛えられたけど、そこに自発的なものがなかったから、多分気持ちがついてきてなかったんでしょうね。惰性じゃないですけど、与えられたものを一生懸命こなすことで自分に合格を出してた自分自身にもちょっと嫌気がさしてきて。「習得したもの、今まで彼女に教えてもらったものを持って次に進もう」、「そうしないと多分私は後悔する」と思って、最後はそれを彼女に伝えました。突然の申し出になったから、すごく申し訳なかったな。
―そうだったんですね。
彼女は本当にすごい作曲家で、どういう指の運び方をしたら弾きづらいかっていうのも全部わかった上で弾きやすく書いてくれてるから、弾けなかったらもうそれは私の問題なんです。100%、私のスキル不足。それを乗り越えるためのスキルは本当にアップしたと思います。でも、正直言うと今のほうが、音は豊かになってるなとも思うんです。どう弾きたいか、どう聴かせたいかとかじゃなくて、もっと大きいものとして音を感じられるようになってきたんですよね。昔はどうやって弾くのが正しいかにとらわれていたけど、結局人に届くのは、スキルよりももっと他のところにあるものだから。
―“届く”という話で言うと、当初はアニメソングやポップスのカバーが多かったりしたのも、より多くの人に届けたいという意図なんだろうなと勝手に思っていました。
そうですね。でも、アニメの曲を扱っていて1個すごくバズったものの中に、デモを聴いて知った時点で「めちゃくちゃいいじゃん!」と特に思えた曲があったんです。それでアニメも全部観て、改めて「このアニメと曲、超ヤバい!」って純粋に感じられて。それを演ったら、再生数もめちゃくちゃ跳ねたんです。それで、やっぱり観てる人もそこにどれだけ雑味のない気持ちが乗っかってるかはわかっちゃうんだなと思いました。そんなこともあって、余計に「もっと純粋に、自分の心がやりたいと求めていることを探してみたいな」と感じるようになったんです。
―そういう内面や心境の変化は、やっぱり演奏にも表れるものなんですね。
雑味や淀みというのかな…。自分が「こうしたい」と思った時点でエゴが乗っかって、そのエゴで音が霞むというか。でも、弾く側も聴いている人たちと同じでただその場所にいて、音を共有しているみたいな感覚になれる瞬間があるんです。その瞬間が、少しずつ増えてきたことが一番の変化かなぁ。昔はそれがまったくなくて、ただ上手く弾けるようになりたいとしか思ってなかった。ずっと弾いていて、そこは超えてるって自分が気づかなきゃいけなかったんですよ。結局私は何を通して音が出てるのかっていうところに気づけなくて進めなかったから、それだけの時間が必要だったんだなと思います。
“食に触れていることで、
生きる原点に戻れる感じがする”
―何をもって良い演奏、良い音楽とするかはいろんな意見があるでしょうけど、河内さんにとって重要な
ことがそこにあったんですね。
やっぱりクラシックがベースだと、明確に正解・不正解はあるんですよ。弾き方として合ってる・間違ってるとか、これは上手でこれはそうじゃないとかっていうのが。だから、私は間違ったことをするのがとにかく怖くて。アドリブとかも全然ダメだったんですけど、去年の1月くらいに夫の家からフォークギターが出てきて、それを弾いてみたらめちゃくちゃいい音がしたんです。弾いたこともない楽器だったからどうやって弾けばいいのかわからないけど、適当に弾いてたらすごくいいコードができて。それを重ねてったらすぐに曲ができて、「私、曲つくれる…!」みたいな。そんなことが私にできるなんて、って。
―すごく素敵なエピソードですね。
もちろんアマチュアですけど、私、心地いい感じの曲とかってつくれるんだなって。なんの知識もなく触れたギターに助けられたのかもしれないけど、自分の感覚としての心地よさだけに集中できたんです。それがまたひとつ、ちょっとの自信になって。そこから、どこからともなく私が曲をつくってるっていう話が人に届いたりして、いきなり作曲のお仕事が来たりとか、宇宙ってどうなってるの? っていう感じ。私、まだ一曲しかつくってないのに、そんなキャンペーンなんてできるの? って思ってたんですけど、できたんです(笑)。
―その巡り合わせも、必然かもしれませんよね。今日は実際にチェロの演奏をしてくださいましたけど、
弾いてくれたフレンチのレストランは河内さんが普段働いてる場所でもあるんですよね?
はい。私の夫が写真家なんですけどテニスコーチもしていて、このお店のオーナーとシェフが元々そのテニス教室の生徒さんだったんです。今、昔ほどチェロを弾かなきゃ! みたいにガツガツはしていないけど、必要とされたときには喜んで弾いてます。このお店ではそういう演奏のお仕事がないときに、できるだけ働かせてもらっていて。もちろん料理も大好きだし、仕事を通していろんなものを与えてもらってます。向こう側で喜んでるお客さんの声が聞こえるんですよ。音楽が聴く側とのキャッチボールだとすると、投げたものがすぐに返ってこないこともあるんです。でも、料理や食事ってもっと身近なもので、人が日常を生きていく中で必ず必要なものを、その時間を共有しながら楽しんでる。そこに関われることで得るものがすごく多いんです。
―何をもって良い演奏、良い音楽とするかはいろんな意見があるでしょうけど、河内さんにとって重要な
ことがそこにあったんですね。
やっぱりクラシックがベースだと、明確に正解・不正解はあるんですよ。弾き方として合ってる・間違ってるとか、これは上手でこれはそうじゃないとかっていうのが。だから、私は間違ったことをするのがとにかく怖くて。アドリブとかも全然ダメだったんですけど、去年の1月くらいに夫の家からフォークギターが出てきて、それを弾いてみたらめちゃくちゃいい音がしたんです。弾いたこともない楽器だったからどうやって弾けばいいのかわからないけど、適当に弾いてたらすごくいいコードができて。それを重ねてったらすぐに曲ができて、「私、曲つくれる…!」みたいな。そんなことが私にできるなんて、って。
―すごく素敵なエピソードですね。
もちろんアマチュアですけど、私、心地いい感じの曲とかってつくれるんだなって。なんの知識もなく触れたギターに助けられたのかもしれないけど、自分の感覚としての心地よさだけに集中できたんです。それがまたひとつ、ちょっとの自信になって。そこから、どこからともなく私が曲をつくってるっていう話が人に届いたりして、いきなり作曲のお仕事が来たりとか、宇宙ってどうなってるの? っていう感じ。私、まだ一曲しかつくってないのに、そんなキャンペーンなんてできるの? って思ってたんですけど、できたんです(笑)。
―その巡り合わせも、必然かもしれませんよね。今日は実際にチェロの演奏をしてくださいましたけど、
弾いてくれたフレンチのレストランは河内さんが普段働いてる場所でもあるんですよね?
はい。私の夫が写真家なんですけどテニスコーチもしていて、このお店のオーナーとシェフが元々そのテニス教室の生徒さんだったんです。今、昔ほどチェロを弾かなきゃ! みたいにガツガツはしていないけど、必要とされたときには喜んで弾いてます。このお店ではそういう演奏のお仕事がないときに、できるだけ働かせてもらっていて。もちろん料理も大好きだし、仕事を通していろんなものを与えてもらってます。向こう側で喜んでるお客さんの声が聞こえるんですよ。音楽が聴く側とのキャッチボールだとすると、投げたものがすぐに返ってこないこともあるんです。でも、料理や食事ってもっと身近なもので、人が日常を生きていく中で必ず必要なものを、その時間を共有しながら楽しんでる。そこに関われることで得るものがすごく多いんです。
―美味しい食事といい音楽を聴くことは、どちらも楽しいですもんね。
楽器は前ほど弾いてないし、曲もそんなにつくってはいないけど、違う部分で自分の畑を耕せてるというか。それが歯車みたいにうまく噛み合うと、ふっと何かが生まれたりする。焦る気持ちもあったりするけど、ここで働いている人たちも思いやりのある人ばっかりで、すごく心地よくて。“食”っていうものに触れていることで、生きる原点に戻れる感じがするんです。それを目一杯楽しめてる今が、自分にとっては自然な気がします。
―“弾かなきゃいけない”みたいな強迫観念から解放されたと。
はい。ただ、やっぱりどこかで私はもう楽器がないと、音楽がないと自分は成り立たないものだとも思ってます。音楽って、その人がどんな思いで生きてきたか、何を大事にしてきたかが鋭く伝わると思うんです。言葉とかにしなくても。ポタンと落とした滴が波紋になって広がるように。
―こうやって言葉でインタビューをしている身としては、少しうらやましいです(笑)。
ちょっとずるいですよね。自分でもそう思います。
―伝統的な楽器だからとどうしても先入観を持ってしまいがちでしたけど、河内さんの話を聞いていると
やっぱりチェロってすごくおもしろいんだろうなと感じます。
それは本当に、みんなに知ってほしいです! チェロって、音域がめちゃくちゃ広いんですよ。頑張ればバイオリンの音域も全部出せるし、それより何オクターブも低い音も出せます。コンサートとかでは「チェロは人の声に近い音域の楽器って言われています」みたいな小話をよくしたりしていて。自分でも今、多重録音をやったりしてるんですけど、そういうことが叶うんです。ひとりでカルテットみたいなことがやれるっていう。だから、「すごい便利だよ」、「なんでもできるよ」って言いたいです。
―美味しい食事といい音楽を聴くことは、どちらも楽しいですもんね。
楽器は前ほど弾いてないし、曲もそんなにつくってはいないけど、違う部分で自分の畑を耕せてるというか。それが歯車みたいにうまく噛み合うと、ふっと何かが生まれたりする。焦る気持ちもあったりするけど、ここで働いている人たちも思いやりのある人ばっかりで、すごく心地よくて。“食”っていうものに触れていることで、生きる原点に戻れる感じがするんです。それを目一杯楽しめてる今が、自分にとっては自然な気がします。
―“弾かなきゃいけない”みたいな強迫観念から解放されたと。
はい。ただ、やっぱりどこかで私はもう楽器がないと、音楽がないと自分は成り立たないものだとも思ってます。音楽って、その人がどんな思いで生きてきたか、何を大事にしてきたかが鋭く伝わると思うんです。言葉とかにしなくても。ポタンと落とした滴が波紋になって広がるように。
―“弾かなきゃいけない”みたいな強迫観念から解放されたと。
はい。ただ、やっぱりどこかで私はもう楽器がないと、音楽がないと自分は成り立たないものだとも思ってます。音楽って、その人がどんな思いで生きてきたか、何を大事にしてきたかが鋭く伝わると思うんです。言葉とかにしなくても。ポタンと落とした滴が波紋になって広がるように。
―こうやって言葉でインタビューをしている身としては、少しうらやましいです(笑)。
ちょっとずるいですよね。自分でもそう思います。
―伝統的な楽器だからとどうしても先入観を持ってしまいがちでしたけど、河内さんの話を聞いていると
やっぱりチェロってすごくおもしろいんだろうなと感じます。
それは本当に、みんなに知ってほしいです! チェロって、音域がめちゃくちゃ広いんですよ。頑張ればバイオリンの音域も全部出せるし、それより何オクターブも低い音も出せます。コンサートとかでは「チェロは人の声に近い音域の楽器って言われています」みたいな小話をよくしたりしていて。自分でも今、多重録音をやったりしてるんですけど、そうい
うことが叶うんです。ひとりでカルテットみたいなことがやれるっていう。だから、「すごい便利だよ」、「なんでもできるよ」って言いたいです。
“痛みを知れたからできることも
あるはずだから”
―あんまりチェロのリコメンドで、“便利”っていうフレーズは聞かないですね(笑)。
(笑)。自由度がすごく高くて、自分でなにかをつくってみたくなったときには人に頼まなくても出したい音域が弦楽四重奏くらいは全部出ちゃうから、すごい便利なんですよ。弦が太い分、豊かな音が出るし、大きな音が出る。だから知ってる人は知ってるオシャレな楽器とかじゃなくて、もっとチェロに対する認識が変わったらいいなって。曲をつくろうとなったときに、「私、めちゃくちゃ弾けるツール持ってるじゃん!?」と思ったんですよ。欲しいと思った音が全部出せる。ギターは見よう見まねだからブツ切りでやらないと録れないんですけど、チェロは一発でスルスル〜って。「チェロ、弾けて良かったな」と思いました(笑)。だから、オススメするポイントは、“弾けると便利”です。
―わかりました(笑)。ちなみにチェロで初めて弾いた曲は覚えていますか?
コレです。(と言って弓を引く)
―『きらきら星』ですね。ご自身で特に好きな曲があったら教えてもらえますか?
ドヴォルザークのチェロ協奏曲とかは大好きで、昔からいつか絶対弾きたいと思っていたから、全曲弾けたときはすごく嬉しかったです。キャッチーさもあって、それいてチェロが主役という感じがしてかっこいいんです。
―やっぱり演奏が難しい曲っていうのがあるんですね。よく「楽器に触れないとすぐに衰える」とかって
いう話を聞きますけど、チェロもそうですか?
私は、昔はそうでした。学生の頃は1日弾かなかったら7日分くらいなまったし、2年ぐらい前までは弾かない時間が24時間空かないようにしたりしていて。今は取り戻し方を習得して、こうしたら取り戻せるっていうのがわかります。ある程度積み重ねてきたら、あとは自分の心が“大丈夫だ”と思えたら大丈夫です。
―あんまりチェロのリコメンドで、“便利”っていうフレーズは聞かないですね(笑)。
(笑)。自由度がすごく高くて、自分でなにかをつくってみたくなったときには人に頼まなくても出したい音域が弦楽四重奏くらいは全部出ちゃうから、すごい便利なんですよ。弦が太い分、豊かな音が出るし、大きな音が出る。だから知ってる人は知ってるオシャレな楽器とかじゃなくて、もっとチェロに対する認識が変わったらいいなって。曲をつくろうとなったときに、「私、めちゃくちゃ弾けるツール持ってるじゃん!?」と思ったんですよ。欲しいと思った音が全部出せる。ギターは見よう見まねだからブツ切りでやらないと録れないんですけど、チェロは一発でスルスル〜って。「チェロ、弾けて良かったな」と思いました(笑)。だから、オススメするポイントは、“弾けると便利”です。
―わかりました(笑)。ちなみにチェロで初めて弾いた曲は覚えていますか?
コレです。(と言って弓を引く)
―『きらきら星』ですね。ご自身で特に好きな曲があったら教えてもらえますか?
ドヴォルザークのチェロ協奏曲とかは大好きで、昔からいつか絶対弾きたいと思っていたから、全曲弾けたときはすごく嬉しかったです。キャッチーさもあって、それいてチェロが主役という感じがしてかっこいいんです。
―やっぱり演奏が難しい曲っていうのがあるんですね。よく「楽器に触れないとすぐに衰える」とかって
いう話を聞きますけど、チェロもそうですか?
私は、昔はそうでした。学生の頃は1日弾かなかったら7日分くらいなまったし、2年ぐらい前までは弾かない時間が24時間空かないようにしたりしていて。今は取り戻し方を習得して、こうしたら取り戻せるっていうのがわかります。ある程度積み重ねてきたら、あとは自分の心が“大丈夫だ”と思えたら大丈夫です。
―悩んだ時期も経て、そう思えるのはすごく今が充実されてるからなんでしょうね。
誰でも、本当にもう明日も来てほしくない、今日1日一をどうやって過ごしたらいいんだろうっていうようなときがあると思うんです。私も、いまだにそんな感じで朝起きるときももちろんあるし。でも、その痛みを知れたからできることもあるはずだから。底抜けハッピーみたいなものも世の中には必要だと思うけど、ちょっと私の担当じゃないかも知れません(笑)。
―それでも、河内さんが前を向いているのがよくわかります。
今は通過点っていう感じです。ユニット時代は半分取り憑かれたように弾かないとと思ってましたけど、今は“なんとかしなきゃ”をとにかく排除していて、今後どうなっていくのかも自分の心のおもむくままで。今、家で料理をして短い動画をつくってるんですよ。途中の手元だけを映すみたいな感じで、細々と。料理をつくるとか、変な音をキーボードでつくったり、MDに吹き込んだ声のキーを変えて遊んだりとか、そういう録音とかエディットみたいなことが昔から好きだったんです。それの延長みたいな感覚で動画編集とかも結構好きなので、色々と組み合わせてお料理の動画をちょっとつくってみようかなと。どこに向かうのかもわからないけど、ただ楽しいです。
―自然体の暮らしですね。すごく微笑ましい。
純粋に「こういうのやってみたんだ」って気持ちで、とりあえず人目を気にせず出してみようかな、みたいな感じです。昔は外見もすごく気にしたけど、歳を重ねてコアの部分がちょっとずつ埋まってきたのか、いろんなことが気にならなくなってきました。演奏ももちろん評価がついてくるものだし、自分でも習慣としていい悪いで見てしまうところもあるけど、弾いたことのなかったギターと一緒で料理だったら私はプロでもなんでもないし、間違ってたとしても家庭料理だから…っていう気持ちで素直にシェアできる。がんじがらめになってた部分が剥がれてきて楽になったというか、今はいいなと思えます。今までも怖気付きながら結局乗り越えてるから、これからもっといろんな経験をしてもあんまり怖くなさそうだな、なんとかなるんじゃないかなって。
―悩んだ時期も経て、そう思えるのはすごく今が充実されてるからなんでしょうね。
誰でも、本当にもう明日も来てほしくない、今日1日一をどうやって過ごしたらいいんだろうっていうようなときがあると思うんです。私も、いまだにそんな感じで朝起きるときももちろんあるし。でも、その痛みを知れたからできることもあるはずだから。底抜けハッピーみたいなものも世の中には必要だと思うけど、ちょっと私の担当じゃないかも知れません(笑)。
―それでも、河内さんが前を向いているのがよくわかります。
今は通過点っていう感じです。ユニット時代は半分取り憑かれたように弾かないとと思ってましたけど、今は“なんとかしなきゃ”をとにかく排除していて、今後どうなっていくのかも自分の心のおもむくままで。今、家で料理をして短い動画をつくってるんですよ。途中の手元だけを映すみたいな感じで、細々と。料理をつくるとか、変な音をキーボードでつくったり、MDに吹き込んだ声のキーを変えて遊んだりとか、そういう録音とかエディットみたいなことが昔から好きだったんです。それの延長みたいな感覚で動画編集とかも結構好きなので、色々と組み合わせてお料理の動画をちょっとつくってみようかなと。どこに向かうのかもわからないけど、ただ楽しいです。
―自然体の暮らしですね。すごく微笑ましい。
純粋に「こういうのやってみたんだ」って気持ちで、とりあえず人目を気にせず出してみようかな、みたいな感じです。昔は外見もすごく気にしたけど、歳を重ねてコアの部分がちょっとずつ埋まってきたのか、いろんなことが気にならなくなってきました。演奏ももちろん評価がついてくるものだし、自分でも習慣としていい悪いで見てしまうところもあるけど、弾いたことのなかったギターと一緒で料理だったら私はプロでもなんでもないし、間違ってたとしても家庭料理だから…っていう気持ちで素直にシェアできる。がんじがらめになってた部分が剥がれてきて楽になったというか、今はいいなと思えます。今までも怖気付きながら結局乗り越えてるから、これからもっといろんな経験をしてもあんまり怖くなさそうだな、なんとかなるんじゃないかなって。
―それが河内さんの本音なんだなと、聞いていて素直に思えます。
昔はインタビューをしてもらうときに、事前に何を聞かれるかを教えてもらって、準備して練習しないと答えられなかったんです。「今回の活動はこうでしたけど、それについてどうですか?」みたいに答えを言わせようとする人もいましたし。でも、昔はそれがむしろありがたかったんですよ。別に自分が何かを思ってるとかってこともあんまりなかったし、間違ったことを言ったら怖いなって気持ちがすごくあったから。だけど、今日は誘導もせずに話を聞いてくださったし、嘘さえ言わなければいいやって。嘘が一番良くないし、それっぽく言うのってかっこ悪いよなって思うから。「これからどうなっていくのか、自分でもわからないけどちょっと見ててよ」って、今は思ってます。
―このお店でその言葉を聞くと、胸に響きますね。
ポジティブなのもそうだけど、まっすぐなものがここには多いから。オーナーもシェフも、すごくいろんなことに気づいて、思いやりのある人。それをさりげなく人に提供できるところとか、自分がこうしてあげたいからやってるだけっていう姿勢とか、“人のため”っていうのをここにいるとすごく感じます。昔の私が習得しきれなかった一番大事なことをここにいると感じられるから、すごく幸せです。
―それが河内さんの本音なんだなと、聞いていて素直に思えます。
昔はインタビューをしてもらうときに、事前に何を聞かれるかを教えてもらって、準備して練習しないと答えられなかったんです。「今回の活動はこうでしたけど、それについてどうですか?」みたいに答えを言わせようとする人もいましたし。でも、昔はそれがむしろありがたかったんですよ。別に自分が何かを思ってるとかってこともあんまりなかったし、間違ったことを言ったら怖いなって気持ちがすごくあったから。だけど、今日は誘導もせずに話を聞いてくださったし、嘘さえ言わなければいいやって。嘘が一番良くないし、それっぽく言うのってかっこ悪いよなって思うから。「これからどうなっていくのか、自分でもわからないけどちょっと見ててよ」って、今は思ってます。
―このお店でその言葉を聞くと、胸に響きますね。
ポジティブなのもそうだけど、まっすぐなものがここには多いから。オーナーもシェフも、すごくいろんなことに気づいて、思いやりのある人。それをさりげなく人に提供できるところとか、自分がこうしてあげたいからやってるだけっていう姿勢とか、“人のため”っていうのをここにいるとすごく感じます。昔の私が習得しきれなかった一番大事なことをここにいると感じられるから、すごく幸せです。
河内ユイコ|かわうちゆいこ
チェリスト
1990年生まれ。ピアニストの母の下、幼少期からピアノに触れて育つがオランダに住んでいた9歳の頃にチェロへと転向。その後日本に帰国し、東京音楽大学をチェロの主席で卒業した。チェロでは苅田雅治氏、ドミトリー・フェイギン氏に師事している。現在は音楽やチェロに対する自分の心の声と向き合いながら等身大の日々を送っている。
Instagram: @yuikokawauchi
河内ユイコ|かわうちゆいこ
チェリスト
1990年生まれ。ピアニストの母の下、幼少期からピアノに触れて育つがオランダに住んでいた9歳の頃にチェロへと転向。その後日本に帰国し、東京音楽大学をチェロの主席で卒業した。チェロでは苅田雅治氏、ドミトリー・フェイギン氏に師事している。現在は音楽やチェロに対する自分の心の声と向き合いながら等身大の日々を送っている。
Instagram: @yuikokawauchi