1. THE WORLD’S FINEST #TWFJS - KATSUHIKO KITAMURA

photo_Takeshi Abe

ファッションをはじめとした各ジャンルの〈ジョン スメドレー〉愛用者を通じて、ブランドの魅力を伝えていく新企画「The World’s Finest」。いつの時代においても“最上級”な〈ジョン スメドレー〉への思いとともに、ご愛用者によるブランドとの関わり方を語っていただいています。今回は、日本のスタイリストの草分けとして70年代から活躍する北村勝彦さんに、〈ジョン スメドレー〉との出会いやブリティッシュ・トラッドについてお話を伺いました。

“ 着る人を選ばない。それは伝統のなせる技 ”

― 〈ジョン スメドレー〉との出会いについて

確か初めてニューヨークに行った1976年か1977年に、マンハッタンのアッパーイーストに「サンフランシスコ」というブティックがあって、そこのオーナーのハワードが着ていたんだよね。イギリスが大好きなハワードは、スメドレーも好きで、ロンドンにいた吉田克幸さん(現ポータークラシック)とも友達だということも知ったんだ。

当時、ロンドンがセールの時期は、ニューヨークのファッション関係者はこぞって深夜便に乗って買い物に行っていたんだけど、僕がロンドンへ行く時に、ハワードが「これを見せればタグなんてなくても、イギリス人は分かるから」と言って自前のニットを1枚くれた。それが最初のスメドレーだった。それをロンドンで着ていたら本当にわかる人には分かって。その滞在時に自分でタートルネックを買ったんだよね。

当時はロンドンの「ハロッズ」(百貨店)でも売っていて、店員に「いいセーターだね」とスメドレーを褒められた。これまでセーターで褒められたのは2回、もう1回はミラノで。スメドレーではないけど、発色のいいセーターを着てタクシーに乗ったら、運転手から「いいセーター着ているね」って。でも、続けて「カラーはすごくいいね。だけど俺のセーターは穴は空いているけどカシミアなんだ」って、褒められたのかけなされたのか複雑な気持ちになった(笑)。

北村さんの愛用する〈ジョン スメドレー〉。
「選ぶカラーはグレーやネイビーばかり。ブラウンもきれいなので、一時期挑戦しようと思ったけど、結局こういう色が着やすい」

― 〈ジョン スメドレー〉の魅力について

イギリスっぽくも見えないし。 知らない人にはニューヨークのブランドにも見えるだろうし、イタリアのブランドにも見える。
初めは無国籍に見えたよね。でもそこがよかったんだと思う。それとハイゲージ。目が細かいのにしっかりとしていて、そういうニットをそれまで知らなかったから。

着始めた当時は、1枚で着る感覚ではなくて、ジャケットの中やフィールドコートの中に着て“インナーの粋”みたいな感じで捉えていた。そうすると意外と利用する幅が広がる。そのうちに色目がシンプルだから重ね着でもいいと思うようになって、カーディガンの中にタートルネックをあわせたり、Vネックにシャツを合わせたりしていたね。いろんなスタイルに対応してくれて、かつ下品にもならない。常にエレガントにしてくれるから、今の学生や若い子とかが着ると、両親からの好感度は上がると思う(笑)。あと、知人の家に初めてお呼ばれしたとき。ジャケットにネクタイはやりすぎだしな……ってときに、スメドレーは硬すぎなくていい。使い勝手もいいから、いつも旅行かばんにも必ず1枚入ってる。

スメドレーで困ったことといえば、長持ちするのとデザイン変更があまりないこと。違ったものが見たいとも思うけど、変わってもほしくない。僕は45年くらい着ていると思うけど、ほとんど印象が変わらない。とはいっても僕は懲りずに毎年買っているし、それでも必ずワードローブに入っていて、必ずなんとなく着ているんだよね。

スタイリングで使う時も、着る人を選ばない。ニットは襟がチクっとしたり、袖まわりがタイトだったり、色々気になる点があるけど、スメドレーはそういう欠点がないよね。だから選ぶのは色と形だけ。それは伝統のなせる技なのか、200年以上続くブランドなんてとんでもないことだよ。でも威張った感じもしないじゃない。それがすごいよね。

― ブリティッシュ・トラッドの思い出

僕の青春期でもある60年代は、「IVY」というアメリカの学生のスタイルが日本でも浸透していて、イギリスの情報が入ってきたのはその後。でもブリティッシュ・トラッドを知ってしまうと、これが本物だということに気がつくわけ。「IVY」の定番だったネイビーブレザーやハリスイードのジャケットだけじゃない世界がそこにはあって、例えば織柄を見ても「フェアアイル」「アーガイル」「チルデン」など広がりがある。

新しいスタイルを考える上で、ブリティッシュ・トラッドは外せないし魅力的だった。「IVY」は大学生のスタイルだったからビジネスマンになったときに、そのスタイルでいいのかなという疑問があったけど、ブリティッシュ・トラッドは年齢層が関係なく、若年層から年配層まで着られるという点でも、時代を超越しているよね。

あと思い出と言えば、昔、日比谷にすごく有名な靴磨きの兄弟がいて、変な靴を持っていくと磨いてもらえないの。台に足をのっけようとするとはらわれるくらい。そこにはルールがあって、磨いてもらいたい靴は履いていかないで、持って行くわけ。
そのときに、靴磨きの片割れが言った「イギリスの靴は歩く靴だ」という言葉が忘れられないんだけど、アメリカの靴は合理的過ぎて、歩けるけど車社会に近い靴で、イタリアの靴はコンテンポラリーで車相手に考えられていると。

世の紳士は歩いていろんなことを学ぶのだから、歩くための靴をどう極めていくか。つまりデザインやクオリティをどのように上げていくかということを考えると、結局イギリスの靴には勝てないという話なんだけど、僕は当時アメリカの靴を持って行っていたので、多分、バカにされていたんだと思うの。「コードバンの磨き方も知らないのか」って(笑)。

― ファッションで大切にしていること

俳人の松尾芭蕉が好きだった「不易流行」という言葉があって、時代が変わろうとも、必ず変わらないものがあるということ。
ファッションもそうだと思う。伝統や先人が残したもの、生活の知恵から誕生したものなど、今日までにいろいろな要素が積み重なってファッションが生まれているけど、それを忘れない。それをベースにすることが大切なんじゃないかな。

ただ流行を追いかけていくのではなく、そういう歴史を理解しておくことも大切だと思う。ただファッションは押し付けない。
必ずその人らしさがあるわけだから、それが表現できていればいいんだよ。

― 第一線で活躍し続ける北村さんにとって、今、最上な時間の過ごし方とは

子どもが大きくなって、家庭も夫婦円満。だから、やっぱり友達かな。信頼できる友達と酒を酌み交わして、日常の延長で、肩肘張らないような酔い方ができるのが今は一番楽しいかな。

北村 勝彦

1946年生まれ。
雑誌『POPEYE』『BRUTUS』『Olive』『ターザン』の
スタイリスト・ファッションディレクターとして活躍後フリーに。
広告や映画の衣装監修など、数多くのスタイリングを手掛け、スタイリストという職業を作った草分けと言われる。

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